3月15日夕刊 2007/3/13(火) 午後 7:46

『話題』 気丈に  (岡村啓太郎)
2006.03.15 夕刊 1頁 夕1 (全703字) 
 遺影の明るく優しい笑顔は、生前の人柄をそのまま映し出しているようだった。白バイでパトロール中、バスと衝突し殉職した県警交通機動隊員のAさん。まだ二十六歳だった。

 エースだった。昨年の全国白バイ安全運転競技会で最多タイの五度目の団体優勝を果たしたメンバーの一人で、今年はさらに中心選手として連覇を狙っていた。悪質な違反車両を逃さない高度な技術の持ち主だった。

 告別式の会場には、両手でVサインをして笑う写真と青い隊員服が飾られていた。弔問に来た年配の男性がそこに近づき、隊員服を手でなでながら肩を落とした。参列者の端で、後輩だろうか、友人だろうか、若い男性があふれ出る涙を止めることができない。同僚を亡くした隊員の悲しみも深い。強豪チームの県警白バイ隊を慕う県外の白バイ隊員も駆けつけていた。

 県警が何かの問題で県民の批判にさらされているときでも、白バイ隊員は常に街頭に出なければならない。時には違反者から逆に苦情を言われながら、取り締まりに当たらなければならない。スマートな外見だけからは分からない厳しさがある。

 Aさんはまだ一歳の双子の男の子二人を残して逝った。人の尊い命を突然奪う交通事故の悲劇をあらためて思う。

 大勢の参列者を前に遺族代表のあいさつをしたのは夫人だった。最愛の夫を亡くし、立っていられないほどのショックとつらさだったと思う。その中で声を詰まらせながら、最後まで礼文を読み通し、子供らと強く生きていく決意を伝えてくれた。その気丈さに胸を打たれた。

 Aさんの死、将来への不安や苦難に懸命に向き合おうとする夫人や子供たちの姿が、県警に投げ掛けた教訓は重い。

高知新聞社

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