第4話 苦情と事故現場でのマスコミ 2007/11/14(水) 午前 3:50

「かすみ」での2人の会話は続いた。

鉄「記者の取材の仕方、その中でもひでぇと思ったのはですね・・・」

 杯をグイッと空けると旦那に差し出した。旦那が受け取ったその杯に酒を注いだ。「なんでぇ?」と注がれた酒に口をつけながら旦那が聞いた。

鉄「その生徒さんは仙波先生の会場でのチラシ配りにはきてなかったんですがね。その娘さんの下宿先に公器新聞の記者から取材の申し入れが直接あったらしいんですわ。」
旦「保護者を通さずに・だろ?」
鉄「そうです。その点はいいんですが、取材の場所なんですよ。問題は。」

 今度は旦那が鉄から受け取った杯を開けて返した。
 鉄は小さく頭を下げてそれを受け取った。杯が酒で満たされると鉄は話はじめた。

鉄「その娘さんは親元を離れて下宿暮らしなんですがね。そこへ記者がやってきたのは日もどっぷりと暮れた時間。下宿の中は男子禁制なんで、場所に困った記者は・・・」
旦「自分の車に誘った・・んだろ」
鉄「ありゃ この話ご存知で?」
旦「いや あの男ならやりそうだとおもってな。」
鉄「そのとおり、自分の車に誘ったんですが・・どういうわけか人通りの少ない裏道のそれも暗がりに車を止めてあったらしい・・その車の中で取材を始めたってんですよ。」
旦「初対面の17の娘さんを・・かい?」
鉄「ええ、その娘さんも気味が悪かったらしいんですが、取材だからって我慢したって事ですよ。それを聞いた親御さんが・・・」
旦「かんかん・・ってところだろう。」

 今度は旦那が自分の杯を鉄に差し出した。土佐独特の杯を回す作法「献杯と返杯」である。

鉄「その取材の内容なんですがね。「動いていたか。停まっていたか』だけと言っていいものでして、他に聞かれたことは覚えていないと女生徒さんは申してます。『何人かの友達は動いていたといっているんだけど君は?』って聞かれて、「バスは停まっていた」ときっぱりと言ったらしいですね」
旦「その女生徒さんは急制動の衝撃とかについては何も聞かれなかったのかい?」
鉄「そのようですね。」
旦「・・・・・・」
 
 旦那は戻ってきた杯を苦い顔をして空けた。
  
旦「他の生徒の話は?」
鉄「『動いていた』って言った生徒は確かにいるんですが、その生徒さんのいう『動いていた』ってのは。停まる寸前か発進する寸前って意味のようです ね・・間違っても『走行中』じゃないってのは確認いたしやした」
旦「ふむ。公器新聞にしてみりゃ『動いていた』ってのは嘘じゃないと言い訳はできるわけだな。報道後の高校生の様子はどうだ?」
鉄「へい。生徒さん達の間で『誰が言った?』なんてことにはなってないようですよ」

 それを聞いて安心したかのように、煙草を取り出し口にくわえた。銚子も空になったので2本ほど追加を頼んだ。

鉄「しかし、公器新聞の記事の意図はよめませんねぇ。現職校長のそれもテレビで『顔出し』までした人に取材をして、それを載せないなんて・・信じられないですねぇ。瓦版屋なら前代未聞の証言なんだと思うんですが・・ それをおしのけて『3対3』ですからねぇ・・・」
旦「はなから載せる気はなかったんだろう。」
鉄「どうしてですか?」
旦「都合が悪いから・・とまではいわねぇが、まぁ 28日の記事には必要なかったんだろよ。」
鉄「じゃぁ 公器新聞28日の記事は何なんですかねぇ?」

 旦那はそれに答えず、自分の杯を鉄に「さした」(差し出した)。
それを受けた鉄はすぐさまその杯をあけ、その上に自分の「持ち前」(自分の杯)を重ねて旦那に返した。

旦「まだ、臭いしかしねぇんだよ・・ところで何か他の「話」はないかい。」
鉄「それなんですがね。事故当日、現場にマスコミが5社くらい集まった時の話なんですが・・・」
旦「ほう?」
鉄「その頃を見計らって、現場でマスコミが警察に集められたらしいんです。」
旦「・・・・・」
鉄「何でも集められた報道陣は撮影を警察から頼まれたらしいんです。」
旦「・・・何を撮れっていわれたんだ?」
鉄「ブレーキ痕でさぁ」

 旦那は自分の気持ちをぐっと抑えるかのように杯を空け、それを鉄に差し出した。そして言った

旦「この話の源(もと)は何処からでぇ?」
鉄「そりゃぁ・・・・」

 と言いかけた時、店の引き戸がガラッと開いて、若い衆が何人が勢いよく入ってきた。この飲み屋の常連の町火消し、「め組」の連中だ。
 
 その中の一人が鉄を見て声を掛けてきた

火消し「ありゃ 鉄さんじゃないですか。お久です。」
鉄「おう 今日も訓練ぢゃったかよ。国(全国大会)も近いが走法の仕上が り具合はどうよ?」

 と、鉄が応じた。鉄も「め組」の一員であるから後輩を無視はできない

 (仁淀川町消防団(旧仁淀村消防団)といえば自治消防=消防団の世界では名が通っている。片岡晴彦も高知県代表として横浜の戸塚の全国消防走法大会に出場して準優勝の成績を残している)

 め組の若い衆(わかいし)が旦那に気がつき、会釈をした。
 旦那も会釈を返した。

鉄「ちょうど出るところやったけ、わるいが帰るきのう。」
火「そりゃもう・・・すんません。」

 鉄と旦那が席を立つと火消し達は2人に頭を下げた。
 そして鉄は女主人を呼んだ

鉄「勘定はいつも通りで。それと若い衆に生麦酒を一つづつね」
 
 女主人はそれを受けて「またきてよ」と送り出してくれた。

 店を出る鉄の背中に火消しの連中から「ごちになります。」の声がかかった。

旦「いい連中じゃないか。いつも鉄が消防を自慢するはずだぜ。でっ話の続きだが・・」
鉄「出所(でどころ)はどこかって話ですね。源は片岡の叔父貴です。」
旦「叔父貴が?・・ってことは 叔父貴も誰からか聞いたって事だな・・」
鉄「現場検証の時には土佐署ですから、そうなりまさぁ」
旦「今何時だ?」
鉄「9時半をを回った位でしょう。」
旦「じゃぁ まだ迷惑にはならねぇな・・・叔父貴の家で飲むぞ。」

 旦那はそう言うと、片岡晴彦の自宅に向かった。

 10月も半ばを過ぎると、南国土佐とはいえ黒潮の香りも届かぬ山里では冷 えてくる。そのせいか、飲みが足りないせいかどうかはわからないが2人は早足で片岡の叔父貴の家に向かった
 「かすみ」から片岡の叔父貴の家までは、早足で10分も歩かないうちに着く距離だ。

                               続く



 

1 urato0711 2007/11/14(水) 午前 7:35
なるほど、そうとうなワルの記者やね。人通りのない暗い裏道の車に連れ込むなんて監禁じゃないんか。高知新聞にそんなもんおるんかぁ〜。

2 urato0711 2007/11/14(水) 午前 8:28
親元を離れて下宿している17歳の女生徒を狙って来たんや、それも日もどっぷり暮れた頃を見はからってな、どこまでも悪賢い記者やなぁ。
シュザイとかうまいこと言って、夜の裏道にとめた自分の車に連れ込んでや。
薄暗い密室の中で17歳の女性に、
「停止前は動いていたでしょう」とか「発進後は動いていたでしょう」とか言いくさって強要して、「動いていた」という言葉を盗んだんじゃ。言葉の強盗やないか。

3 lllcrimsonlll 2007/11/14(水) 午前 10:52
コメントは初めてですが、いつも読ませていただいております。
ただ、ひとつ思うところがあるのですが、
この文章のような「江戸口調」の記事がたまにありますが、
非常に読みづらいし、また少しオチャラケているように感じるのは、
私だけでしょうか。。。(T-T)
ふざけてるつもりなんて全然ないのは充分分かっているのですが、
普通に書いていただけると、とてもありがたいです。

4 iiojyun 2007/11/14(水) 午後 8:49
これはこれで楽しみに読んでいます。
高知市と松山市の中間点に位置する山の地域である仁淀川町の土地柄や、作者の情念を感じたり読み取ることができますよ。
このブログはすべてが重たいのですが、上の「江戸風」記事をオチャラケのように感じる方もいるかも知れませんが、中身は大変重たいものです。
(読みずらく思われるのは、意味のとりづらい箇所があるからでしょうか)。

5 iiojyun 2007/11/14(水) 午後 9:06
重たい中身をこのように読ませるのが、この作者の作風かも知れません。

6 tos*ik*zu23** 2007/11/15(木) 午後 11:23
愛媛の白バイ事故・・・母です。
この度、Yahoo!でブログを作りました。
http://blogs.yahoo.co.jp/toshikazu2355/5717.html
まだ、不慣れですが、宜しくお願いします。
すごいがんばりで、頭がさがります。
朝晩寒くなってきましたね。
かぜなどひかないよう、お気を付けください。

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